Contents [Close]
はじめに
実装工程のはんだ付け(半田付け)でよく耳にする「フラックス」とは、はんだ付けの補助剤であり、はんだ付けを可能にする役割を担うものです。
今回はフラックスとは何なのか、その役割や成分、種類などを解説し、はんだ粉とフラックスで構成されるはんだペーストではんだ付けした後に残ったフラックス残渣(ざんさ)によるトラブルとその対策ついて解説します。
はんだ付け中のフラックスの役割
まず、はんだ付けとは、「はんだ」と呼ばれる450℃以下で溶融する合金を熱によって溶かし、接合したい材料同士の界面で固めることによって、ごく薄い反応層を形成して接合する技術のことをいいます。
はんだ付けは電子分野では一番多く使用されている接合方法です。
私たちの身の回りにあるスマートフォンやゲーム機、タブレット、PCなどの電子機器においても様々な電子部品がプリント配線板にはんだ付けされています。
写真1は、こて(はんだごて)による はんだ付けのイメージを示しています。
写真1:はんだ付けのイメージ
通常、金属の表面には酸化被膜が存在するため、単純にはんだを熱によって溶かしただけでは母材*1と接合できません。
しかも、酸化被膜は一度除去しても、空気中の酸素と結びついてすぐにまた酸化被膜ができてしまいます。
そこで活躍するのがフラックスです。
フラックスとしては天然由来の「松やに(ロジン)」がよく知られています。写真2は「松やに」のかたまりです。
写真2:松やにのかたまり
フラックスを使うことで、
✓ はんだ粉の表面と母材の金属表面の酸化被膜や表面皮膜を除去し、はんだがつく状態にする(これを「ぬれる」と表現します。)
✓ 金属表面の再酸化を防止し清潔な金属表面を保つ
などの作用があり、はんだ付けを可能にする役割を担っています。
*1 母材:接合するもの。実装工程のはんだ付けの場合、部品電極や、配線板の電極パッドなど。
フラックスの成分
ここでは、通常の実装工程で多く使用されている「樹脂系」に区分されるフラックスについて解説しています。
フラックスの種類については下記「フラックスの種類」を参照ください。
樹脂系フラックスは、天然樹脂である松ヤニ(以下、ロジンと表記)に代表される主剤に、活性剤や必要に応じて溶媒が配合されています。
1つづつ詳しく紹介していきます。
主剤
フラックスの主剤は樹脂(ロジン、合成樹脂など)です。
この主剤が加熱されて、はんだや被着面の表面にある酸化被膜を除去し、同時に、はんだと被着面表面を保護し再酸化を防ぎます。
活性剤
活性剤は、はんだと被着面の表面にある酸化被膜を除去する力を増大させる添加剤です。はんだの種類やはんだ付けの温度や時間によっては複数種の活性剤を含む場合もあります。
溶媒
溶媒にはアルコール系溶剤が使用され、主剤である固形の樹脂を溶解します。
また、フラックスの粘度を調整し、プリント配線板などへの均一塗付や母材へのぬれ、隙間への浸透を改善する等の働きを担います。
【参考】フラックスの種類
実装工程のはんだ付けで使用されるフラックスは樹脂系以外に有機系が使用されることもあります。
それぞれの構成材料は、下の表のようになります。
フラックス区分 | 構成材料 | |
---|---|---|
主剤 | 活性剤 | |
①樹脂系 | 1. ロジン a. 変性ロジン 2. 合成樹脂 |
1. 無添加 2. アミンのハロゲン塩 3. 有機酸、アミン有機酸塩 |
②有機系 | 1. 水ベース物質 2. 溶剤ベース物質 |
・日本のエレクトロニクス実装においてはロジンベースのフラックスが一般的に使用されています。
・有機系には、海外で使用されている例が多い「水溶性フラックス」と呼ばれるタイプが含まれます。
・最近ではハロゲンフリータイプ、低残渣タイプ、低VOCタイプなど環境に配慮して、配合成分を工夫したフラックスも使われています。
はんだペースト
上述したように、私たちの身の回りにある電子機器(携帯端末、パソコンなど)において、様々な電子部品がプリント配線板にはんだ付けされていますが、こういった機器のはんだ付けには はんだペーストが使用されています。
はんだペーストは、粉末状にしたはんだをペースト状のフラックスに混ぜ込んだもので、ソルダペースト、クリームはんだとも呼ばれます。
はんだ粉
はんだ粉は球状で粒径20~30umのものが一般的です。最近では0201サイズ等の微小・微細部品の実装用として、5~15umという微小粒子径のはんだ粉を含有するはんだペーストも上市されています。
ペースト状フラックス
フラックス(ロジン、活性剤、溶媒)とチクソ剤から構成されています。
チクソ剤は粉末はんだとフラックスの分離防止、およびはんだペーストを印刷する際の印刷性の向上などを目的として添加されています。
フラックス残渣(ざんさ)
フラックスを構成するロジン・活性剤などの成分は、はんだ付け工程で金属表面の酸化被膜と反応し酸化物を溶解除去することにより、はんだ付けが可能になります。
しかし、はんだ付けと同時に”フラックス残渣”(反応後の燃えカス)が生成されます。
はんだペーストを用いてはんだ付けした後のフラックス残渣には、ロジン、未反応の活性剤、チクソ剤、金属塩(Sn塩等)が含まれています。
このフラックス残渣を放置すると、フラックス残渣中の活性剤やロジンが金属を腐食させたり、酸化被膜とフラックスの反応物質が空気中の水分を吸湿したりしてトラブルを引き起こす危険性があります。ほかにも、フラックスが存在することによって発生する物理的なトラブルもあります。
【電気化学的なトラブルの一例】
・絶縁抵抗の低下
・腐食
・マイグレーション
【物理的なトラブルの一例】
・接続不良
・はんだボール
・電気検査時のコンタクト阻害
・外観検査不良
・後工程での不良(ワイヤボンディングや樹脂封止など)
外観上の変色から、製品の機能を破壊してしまうトラブルまで様々なものがありますが、 こういったトラブルが発生している状態で製品を出荷すると、大きな市場トラブルにつながる危険性があります!
フラックス洗浄
フラックス残渣が引き起こすトラブルの解決や予防には洗浄(フラックス洗浄と呼ばれます)が極めて有効です。
低残渣タイプのフラックスを使用する場合、フラックス洗浄の工程を省略して無洗浄とするケースもありますが、車載モジュールや宇宙関連機器など高い信頼性が要求される分野では上述のようなトラブルを避けるためフラックス残渣の洗浄工程は欠かせません。
それ以外にも最近では、ITなど高密度実装化が加速する分野において、わずかなフラックス残渣でも その中に残存する樹脂等による誘電損失(回路特性への悪影響)を引き起こす懸念があり、フラックス洗浄が求められています。
では具体的にはどんな洗浄方法があるのでしょうか。
その内容は次回に続きます!
参考文献
標準 マイクロソルダリング技術 第3版
社団法人 日本溶接協会 マイクロソルダリング教育委員会[編]
日刊工業新聞社
関連記事/関連製品
![]() |
技術資料
|
---|---|
![]() |
困ったときの解説ページ
|
![]() |
困ったときの解説ページ
|
![]() |
製品紹介
|
お問い合わせ
- お問い合わせいただくにあたって、下記の項目を正確にご記入下さい。
- お問合せ内容によっては、ご返事を差し上げるのにお時間をいただくこともございます。
- ※お問い合わせフォームからのセールス等は固くお断りいたします。送信いただいても対応いたしかねます。