パーティクル除去用洗浄剤 マイクロクリン FPS-4700、マイクロクリン FPS-4712

はじめに

カメラ・センサ類など光学モジュールをはじめとする精密電子機器の高性能化と需要拡大に伴い、製造工程で発生・付着する微細異物(パーティクル)の除去技術はますます重要になっている。一方で化学物質に対する法規制は一層厳しさを増し、パーティクル除去用途で汎用的に用いられてきた有機フッ素化合物類も、それらに起因する水質汚染と人体への有害性が指摘され、欧米を中心に製造・使用の制限が進む見通しである。本稿では、フラックス洗浄剤・洗浄装置メーカーである当社が、そのノウハウを基に新規開発した、高洗浄力・安全・低VOCなど優れた数々の特長を備えるパーティクル除去用洗浄剤「マイクロクリンFPS-4700」及び「マイクロクリンFPS-4712」と、その洗浄性能を最大限発揮させるとともにランニングコストの削減に寄与するパーティクル除去システムを紹介する。

パーティクルとは

 パーティクルは主に電子機器・部品類の製造工程で発生・混入し、製品品質及び歩留まりに悪影響を及ぼす可能性のある、nm~µmオーダーの微細な粒子状異物の総称である。パーティクルを構成する物質は加工・成形の際に生じる切削粉をはじめ、空気中の塵埃、製造装置の可動部が接触・摩耗することで生じる金属・樹脂のカスなど、有機物・無機物を問わず様々である。

 中でも製造工程における現場作業者自体が最大のパーティクル発生源の一つである。人間の体には微小粒子や繊維屑等の異物が数多く付着しており、皮膚片や皮膚表面の分泌物なども作業者の動作により脱落・飛散すると、製品表面を汚染する可能性が高い。場合によっては汗の塩分、整髪剤や化粧品類に由来する酸化鉄、酸化チタンなどがこれに含まれ、金属汚染により製品の電気的信頼性を損なうリスクがある。そのため作業者には要求される現場のクリーン度に応じた仕様の無塵衣やマスクの着用が義務付けられ、数々のルールに沿った行動が求められるが、人が介在する以上、パーティクルの発生をゼロにすることは困難である。

パーティクル除去の重要性

 現在、新型の国産車においては、衝突被害軽減ブレーキやバックカメラの搭載が段階的に義務化され、先進運転支援システムの普及が急速に進んでいる。2021年には世界初の自動運転レベル3(特定条件下における自動運転)の機能を実装した車種の市販が開始され、レベル4(限定領域下における完全自動運転)実現に向けた開発と法整備も各国で進められている

 自動車の安全性向上と高機能化の鍵を握るのが、車両周辺の環境認識を正確に行うためのセンサである。ドライバーの死角をモニタリングするビューイングカメラをはじめ、車間距離や周囲の安全確認を行うセンシングカメラ、LiDAR(Light Detection and Ranging)など多数のカメラモジュール、光学センサが複合的に用いられる。こうしたセンサ類の製造工程において、検知精度に悪影響を及ぼすパーティクルは大敵である。制御基板やアクチュエータ上にパーティクルが残留していた場合、組み立て後にユニットの稼働や振動により、内部からイメージセンサや光学素子など重要な部品を汚染する。その結果、画像処理精度や映像品質を低下させ、誤検知及び動作不良により重大な事故を引き起こす要因となってしまう。

 また車載用途に限らず、モバイル機器用カメラを中心にカメラモジュールの需要増加と高機能化が著しく進んでいる。スマートフォンなどの小さな筐体内で、幅広い焦点距離・撮影環境に対応するため複眼カメラの搭載が一般化している他、ハイエンド機種では1億画素以上の超高解像度カメラを備えたモデルが登場している。カメラの機能向上に比例して、10µm以下のより小粒径・少量のパーティクルも製品品質上の問題となっており、洗浄需要が増す一方でこれまで以上に高度な洗浄品質の確保が要求されている。

パーティクル除去の現状と課題

 パーティクルは大半が、金属粒子やたんぱく質など各種溶剤に不溶・難溶な固形物のため、被洗浄物から引きはがして除去する「分離型洗浄」が必要となる。また粒径がmmオーダーを下回ると、重力や静電反発力など粒子を母材表面から引き離す力に対し、ファンデルワールス力や固体・液体架橋力といった母材と粒子が引き合う力が支配的になり、相対的に付着力が高くなるため除去が困難になる。したがって浸漬や液流のみでパーティクルの除去は難しく、効果的に物理力を付与する洗浄方式の選定が重要である。湿式洗浄において、超音波方式はパーティクルに対し最も有効な洗浄手法の一つである。超音波照射が液中にもたらすキャビテーション、分子加速度運動、反応促進効果など物理的・化学的作用の相乗効果で、様々なパーティクルを速やかに剥離・分散させることができる。各作用の寄与の度合いは周波数に応じて変化するため、除去対象物の粒径や材質に基づいた条件設定を行うことで、より良好な洗浄品質が得られる。

 パーティクル除去用洗浄剤としては、HFE(Hydrofluoroether)、HFC(Hydrofluorocarbon)などフッ素系洗浄剤や水系洗浄剤及び純水が広く用いられてきた。HFEやHFCは不燃性で乾燥性に優れ、樹脂/金属部材に対する適合性が高い。大半の有機溶剤や水と比べて比重が1.5倍程度あり、超音波洗浄時の物理的作用で洗浄対象物にかかる抗力が大きく、粒子を母材表面から引き剥がす力に優れている。しかしながら、油脂溶解力が限定的で洗浄対象物を選ぶ傾向がある。加えてこれらのフッ素系化合物はPFAS(パーフルオロアルキル化合物、およびポリフルオロアルキル化合物)と総称され、自然界で極めて分解されにくく生体蓄積性が高いため、人体へ取り込まれた際に発がんリスクの上昇など様々な健康被害を及ぼすことが指摘されている。欧米では2025年にも一万種を超える全PFASの製造・使用が規制される見通しであり、国内でも一部地域で水道水のPFAS汚染が明らかになった他、周辺住民の血中からもPFASが検出されたことを受け、対策が検討されている。

 水系洗浄剤の場合、パーティクル除去用途では界面活性剤やアルカリ成分を含む配合が一般に用いられる。主剤が水のためVOC(揮発性有機化合物)やGWP(地球温暖化係数)はともにほぼ0であり、引火点がなく安全性に優れる他、水はキャビテーションを生成しやすく超音波で高い洗浄効果を得ることができる。一方でリンス工程においては純水のかけ流しにより大量の廃水が継続的に発生するため、各種処理設備の設置と運用に多大なコストがかかる。水リンスで濯ぎ切れない界面活性剤が被洗浄物表面に残留するリスクもあり、電子デバイスの洗浄では伝送路表面の吸湿を招き、電子回路の誘電損失を増大させる懸念がある。

 地球温暖化を代表とする環境問題の深刻化に伴い、PFASに限らず化学物質を取り巻く法律や規制は世界的に見直され、厳しい管理と運用が求められている。多量の薬液や純水を用いる産業洗浄は常に環境問題と隣り合わせであり、高い洗浄品質要求をクリアしつつも、さらに安全性と環境に配慮したシステム開発が望まれている。

パーティクル除去用洗浄剤 マイクロクリンFPS-4700、FPS-4712の特長

 マイクロクリンFPS-4712(以下FPS-4712)はグリコールエーテルをベースとし、約7割の水を含有する弱アルカリ性のパーティクル除去用洗浄剤である。加温条件下において二相に分離し、均一に白濁したエマルション状態で運用することで、有機物・無機物を問わずあらゆる対象を良好に除去できる。各種パーティクルをガラス板上に塗布し、FPS-4712で洗浄処理した後の除去率と外観を第1図に示す。付着力が比較的弱い無機パーティクルは無論のこと、他洗浄剤では対応困難な人体由来の異物に関しても、FPS-4712を用いた場合はほぼ完全除去が可能であった。

洗浄対象物洗浄前マイクロクリン
FPS-4712
マイクロクリン
FPS-4700
フッ素系洗浄剤水系洗浄剤
皮脂+皮膚片
平均粒径:約20μm
'
アルミナ
平均粒径:約3μm
タルク
平均粒径:約0.5μm

除去率評価基準 ◎:99%以上/◯:98 ~ 90%/◯':89 ~ 70%/△:69 ~ 40%/✕:39%以下
洗浄条件 超音波45 kHz/300 W、50 ℃/1 min洗浄

第1図 パーティクル除去性 比較評価結果

 FPS-4712が高いパーティクル除去性能を有する要因として、水相中に独立した油相が存在する点が挙げられる。極性が大きく異なる二つの相が交互連続的にパーティクル表面へ接触することで、固体・液体架橋力をもたらす塩類、油脂類等の各種極性・非極性汚れを効率的に溶解させる。またパーティクル表面に対して親和性の高い一方の相が優先的に濡れ広がり、もう一方の相がそれらを母材表面から引き剥がし分散させる役割を果たすことで、強力な分離除去効果を付与することができる。さらには洗浄剤に含まれるアルカリ成分が、浸漬した被洗浄物及びパーティクル表面のプロトン(H+)を奪って負に帯電させる。その周囲に液中のカチオンが雲状に集まる(電気二重層)ことで各表面間の斥力(静電反発力)が増大し、結果としてパーティクルの脱離・分散を促進すると同時に、その再付着を防ぐことができる。

 更なる部材影響の低減やVOC削減が望まれる用途向けには、併せてマイクロクリンFPS-4700(以下FPS-4700)をラインナップしている。VOC含有量は100g/Lを切り、中国にて2020年に施工された 強制国家標準(GB38508-2020)においては「低VOC含有量半水系洗浄剤」に分類され、中国国内でも問題なく使用が可能である。FPS-4712と同じく加温によって二相分離する特長を有しており、FPS-4712には若干劣るものの、何れのパーティクルに対してもフッ素系洗浄剤や水系洗浄剤同等以上に良好な除去性を有している(第1図)。さらに配合設計上ほぼ全ての金属・樹脂材料に対し影響を及ぼさないため、母材や洗浄対象物を選ばず幅広い用途に適用が可能である。

 FPS-4700及びFPS-4712の一般性状を第1表に示す。何れについても引火点がなく消防法(危険物)に該当しないことに加え、化学物質排出把握管理促進法(PRTR制度)や労働安全衛生法有機則)などの各関係法令にも非該当なため、運用方法・洗浄方式に依らず安全に使用することができる。特にどちらの洗浄剤も水を分散媒とするエマルション状態で用いるため、一般的な溶剤系洗浄剤より超音波の伝搬に優れており、キャビテーションの衝撃力を効果的にパーティクルへ作用させることが可能である。また不揮発成分を含有しておらず、フッ素系洗浄剤同様に一液での濯ぎ・乾燥が可能である他、当社のパーティクル除去システムと組み合わせて運用することにより、インラインで連続蒸留再生を行うことができる。

第1表 マイクロクリンFPS-4712/マイクロクリンFPS-4700一般性状

品名マイクロクリン
FPS-4712
マイクロクリン
FPS-4700
比重0.980.99
表面張力 mN/m(25 ℃)3032
沸点 ℃≧100≧100
引火点 ℃なしなし
オゾン層破壊係数(ODP)00
消防法該当せず該当せず
労働安全衛生法(有機則)該当せず該当せず
化管法(指定化学物質)該当せず該当せず
環境省 VOC対象100物質含有せず含有せず
中国VOC規制
(GB38508-2020)
半水系洗浄剤低VOC含有量
半水系洗浄剤

パーティクル除去システムについて

 本項では、フラックス洗浄剤・洗浄装置のトップメーカーである当社が、長年に渡り積み重ねた装置設計のノウハウを基に新規開発した、パーティクル専用のバッチ式超音波洗浄装置の概要をご紹介する。約50L容量の洗浄槽と乾燥槽の2槽構成を基本とし、多段式の全量ろ過機構に加え小型の蒸留再生器を内蔵している。

 パーティクル除去において、洗浄剤の清浄度管理は最も重要なポイントである。液中のパーティクル濃度増加に伴って母材表面の再汚染リスクが増大するため、液循環ライン中にフィルタを設置するなどして異物を捕集し、洗浄品質に影響を及ぼさない濃度を保つ必要がある。また除去対象とする粒径以上のパーティクルを、洗浄時間内で確実に液中から取り除き再付着を防ぐためには、対象物に合わせたフィルタ構造やろ過精度の選択、槽容量に基づくろ過流量や液循環ラインの設計が要求される。

 こうした不溶物はろ過で除去できる一方、パーティクルと共に液中へ持ち込まれる油脂や一部樹脂類など、洗浄剤に可溶な不揮発成分は捕集されないため、液中に残留・蓄積し被洗浄物表面を再汚染する要因となる。そのため当社では、フラックス洗浄事業で培ってきた蒸留再生技術により、液に可溶な不揮発性の汚れや、ろ過で取り切れなかったごく微細なパーティクルに関しても系外へ取り除き、液の清浄度を新液に近い水準で維持し続けることを可能にした(第2図)。FPS-4700及びFPS-4712のどちらも非共沸系の混合液体であるが、当社の蒸留再生器を用いることで組成を変動させることなく、インラインで清浄度を維持することができる。汚れは再生器内に濃縮され、この再生廃液のみを定期的に排出すればよいため廃液量が極めて少なく、水系洗浄剤などと比較してランニングコストを大きく削減できる。再生器はコンパクト設計であるため、付帯設備を含めた装置全体の専有面積は、フッ素系洗浄剤用の一槽式洗浄機と比べても3割程度抑えられる。

第2図 パーティクル除去装置 液循環フロー図

 また超音波洗浄においては、乱流によって液面が波立ち気泡が生じると、キャビテーションの衝撃力が吸収され洗浄効果が大きく損なわれてしまう。一方で液流が殆どない状態では、除去されたパーティクルや汚れが被洗浄物近傍に留まり洗浄効率が低下する上、被洗浄物表面を再汚染する懸念がある。よって本装置では洗浄槽にオーバーフローと脱気機構を備え、除去されたパーティクルを洗浄液面から速やかに排除すると同時に、泡噛みのない均一で穏やかな層流を実現し、超音波と洗浄剤による洗浄効率を最大限に高めている。洗浄剤中の溶存気体に関しても、脱気機構によって適正量が常に維持され、超音波の伝搬阻害による洗浄ムラの発生を防ぐことができる(第3図)。

【測定条件】
 洗浄剤:マイクロクリンFPS-4712
 超音波条件:28kHz/600W、液温50℃

第3図 脱気の有無による循環流量と平均音圧の相関

 また、一般にパーティクルの粒子径と除去に適した超音波の周波数は相関があると言われており、除去対象物や被洗浄物の種類に応じた使い分けが重要である。75kHz以下の周波数域では音波の振幅に比例し、キャビテーションの核となる共振気泡径が大きくなり衝撃力が増すため、粒径の比較的大きな異物や付着力の強い対象物に向くが、部材に与えるダメージも大きい。100kHz以上の周波数域では、キャビテーションの寄与は減少する一方で分子の加速度運動が増大し、洗浄剤の構成分子が洗浄対象物に衝突する力で洗浄が進行するため、ごく微小な対象物の除去に適している。加えて、照射する超音波の周波数毎に液中に生じる定在波の波長が定まり、キャビテーションの発生が集中する洗浄最適位置が変化するため、被洗浄物を固定して洗浄した場合、設置位置による洗浄ムラや部材影響増大などのトラブルが生じやすい。本装置では洗浄工程に揺動機構を取り入れ、低周波数域でもムラなく高い洗浄品質を得ることができる(第4図)。洗浄槽数を増やし、それぞれに異なる周波数の超音波ユニットを搭載することなども可能であり、要求される洗浄品質や生産数量に応じた多様な仕様に対応している。

【試験条件】
 洗浄対象物:カメラモジュール
 洗浄剤:マイクロクリン FPS-4712
 洗浄条件:超音波 28kHz/600W、液温 50℃/1 min 洗浄

第4図 揺動有無によるパーティクル 平均除去率(n=5)の比較

おわりに

 本稿では、高度化するパーティクル除去要求に応えるべく当社が新規開発した、パーティクル除去用洗浄剤とその除去性能を最大限に発揮させるパーティクル除去システムを紹介させて頂いた。当社はこれまで、エレクトロニクス分野におけるフラックス洗浄剤・洗浄装置のトップメーカーとして、多くのお客様に当社の洗浄システムをご愛用頂いてきた。今後もさらに厳しさを増す環境負荷低減の要求と、製品性能の向上に伴って高度化する洗浄需要を見据え、幅広いニーズに応える洗浄システム開発に邁進する所存である。

参考文献

  • ⑴ 今井:IATSS Review、Vol.47、No.3、pp.173~179 (2023)
  • ⑵ 堀:オレオサイエンス、第6巻第3号、pp.111~118 (2016)
  • ⑶ 小林:洗浄の辞典、pp.30~31 (2022)
  • ⑷ 橋本:日本音響学会誌、61巻3号、pp.160-165 (2005)

【出典】
超音波テクノ誌 2024年1・2月号より

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