環境対応型パーティクル除去システム マイクロクリーナー®FPS

1.はじめに

  パーティクルとは空気中に浮遊する塵埃から部品の切削加工や製造機器の摩耗等で発生する金属・樹脂粉、さらには人体由来の皮膚片・皮脂に至るまで、その大半が洗浄剤や水に難溶な微粒子状異物を指す。また電子デバイスなどの生産現場では、製品品質を確保するためにクリーンルームを用いた厳格な防塵管理が行われているにもかかわらず、パーティクルの発生源は多岐にわたり、根底からなくすことは困難である。

  電子デバイスの製造工程で付着したパーティクルが十分に除去されず、構成部品上に残留した場合、組み立て工程や製品として動作した際の振動や衝撃により、電子デバイス内部で飛散する可能性がある。特にカメラモジュールやセンサ類においては、こうしたパーティクルがCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサといった受光素子やレンズを内部から汚染することで、画像処理精度の低下や誤検知など製品品質に重大な影響を及ぼすことが懸念される。この様な製造工程における欠陥原因を取り除き、最終製品の品質向上のためにパーティクルを適切な手法で除去する工程の確立が重要である。

  本稿では、当社が長年フラックス洗浄分野で培ってきた洗浄剤配合設計、洗浄プロセス設計の各技術を応用し新規開発した環境対応型パーティクル除去専用システムとして、洗浄剤「マイクロクリン FPS」及び洗浄装置「マイクロクリーナー® FPS」について紹介する。

2.開発経緯

一般的にパーティクル用洗浄剤としてHFE(Hydrofluoroether)やHFC(Hydrofluorocarbon)に代表されるフッ素系洗浄剤、界面活性剤やアルカリ成分を含む水系洗浄剤、及び純水が広く使用されてきた。フッ素系洗浄剤は、不燃性の液体で通常使用条件下では引火・爆発の危険性がなく、また比熱や蒸発潜熱が水と比べて小さいため乾燥性に優れ、各種部材に対してほとんど影響を与えない1)。一方で洗浄性については、HFEやHFCは分子内に塩素をもたず脂質類と親和性を有する構造がないため油脂溶解力が乏しく、タンパク質汚れなどの熱履歴によって製品上に溶着するなど強固に付着したパーティクルを完全に除去することは難しい。また環境面の問題点として、フッ素系洗浄剤に含有される有機フッ素化合物(以下、PFAS)は自然界で容易に分解されず、環境残留性や生態蓄積性が懸念されている。水系洗浄剤や純水は安価で入手しやすく、超音波洗浄、スプレー・シャワー洗浄、噴流洗浄など洗浄方式に縛られず、用途に応じて方式の組み合わせを選定できることから、パーティクル洗浄用途としても広く使用されてきた。その反面、リンス工程における純水の大量消費、及び排水処理設備の大型化などの環境面、コスト面の課題がある。また品質面の課題として、水系洗浄剤に含まれる界面活性剤の濯ぎ残りによる電子回路の誘電損失増大、さらには有効成分として添加される強アルカリ成分によって、金属部材の腐食など、電子デバイスの信頼性の低下が挙げられる。

  炭化水素やグリコールエーテルなどの有機溶剤成分を含む洗浄剤は、分子構造の選定次第でタンパク質汚れだけでなく、金属・樹脂粉などの無機・有機パーティクルなど幅広い汚れに対して優れた洗浄性を発揮する。一方で、これらの成分は大半が揮発性有機化合物(以下、VOC)に該当し、大気汚染や人への健康影響の懸念から排出削減の取り組みが年々強化されている。

  こういった状況を見据えて、当社は幅広いパーティクルに対して高い除去性を発揮し、従来洗浄システムが抱える環境面の課題を解決するパーティクル除去システムを開発した。

3.洗浄剤「マイクロクリン FPSシリーズ」2)

3.1 特長

  現在、パーティクル除去専用洗浄剤としてマイクロクリン FPS-4712(以下、FPS-4712)、及びマイクロクリン FPS-4700(以下、FPS-4700)の2種類をラインナップしている。FPS-4712は約7割の水にグリコールエーテルなどの有効成分を配合した弱アルカリタイプの洗浄剤である。FPS-4700は約9割の水を含む中性タイプの洗浄剤であり、FPS-4712から更にVOC含有量を低減し、配合設計上、電子デバイスで使用されるほとんどの金属・樹脂部材に対して影響を及ぼさない。

  どちらの洗浄剤も外観は室温で均一透明を維持するのに対し、洗浄使用温度では極性の大きく異なる油相と水相に分離し、撹拌下で均一に白濁したエマルション状態を保つ(図1)。界面活性剤など不揮発成分は一切含まないため、リンス工程が不要な一液運用で洗浄・リンスを同時に行うことができる。純水と比べて液の蒸気圧を下げた配合設計のため乾燥性にも優れ、製品表面に洗浄剤成分が残留し品質不良を起こす恐れはない。またPFAS該当物質の全般、及び環境省が示す主なVOC100種を含有しておらず、労働安全衛生法(有機則)や消防法等の国内の各種関係法令にも該当しないため、環境適合性や作業安全性も高い。さらに中国で2020年に施行されたVOC規制(洗浄剤揮発性有機化合物含有量限度値:GB38508-2020)に対しても、FPS-4712は半水系洗浄剤、FPS-4700は低VOC含有量半水系洗浄剤に適合し、中国国内でも問題なく使用できる(表1)。


図1.マイクロクリンFPSの加温前後の外観比較  FPS-4712(左)、FPS-4700(右)

表1.マイクロクリンFPS-4712/マイクロクリンFPS-4700 一般性状

品名マイクロクリン
FPS-4712
マイクロクリン
FPS-4700
液の外観室温静置無色透明無色透明
加温撹拌白濁エマルジョン白濁エマルジョン
比重0.980.99
表面張力 mN/m(25℃)3032
沸点 ℃≧100≧100
引火点 ℃なしなし
オゾン層破壊係数(ODP)00
消防法 危険物該当せず該当せず
労働安全衛生法(有機則)該当せず該当せず
化管法 (PRTR制度)該当せず該当せず
環境省が示す主なVOC100種含有せず含有せず
中国VOC規制 (GB38508-2020)半水系洗浄剤低VOC含有量
半水系洗浄剤

3.2 パーティクル除去のメカニズム

粒径がnm~μmオーダーのパーティクルの場合、母材と粒子との間にファンデルワールス力や静電引力、固体・液体架橋力といった互いに引き合う力が支配的に作用し、相対的に付着力が高くなるため除去が困難になる3)。FPS-4712、FPS-4700は下記に示すようなメカニズムにより、パーティクルの化学的・電気的な付着力を弱め、母材表面からの脱離・分散を促進すると推測される(図2)。


図2.マイクロクリンFPSによる有機物パーティクル(皮膚片+皮脂)除去のメカニズム

分離した洗浄剤中の極性の異なる二つの相(油相と水相)が交互連続的にパーティクル表面へ接触する。その際、親和性の高い方の相がパーティクル表面に対して優先的に濡れ広がる。
選択的に濡れ広がった相が母材とパーティクルの隙間に浸透し密着性を弱める。
もう一方の相がそれらを母材表面から引き剝がし超音波のキャビテーションやポンプの液循環など外的作用の効果も相まって液中に速やかに分散させる。

さらにFPS-4712は洗浄剤中に含まれるアルカリ成分の効果により母材とパーティクルの各表面を負に帯電させることで、静電反発力によってパーティクルの脱離・分散を促進する4)。また、どちらの洗浄剤も水相に油相が均一に分散された構造をとることで、超音波の伝搬を高めて、キャビテーション効果を最大限発揮することができる。

  こうした洗浄作用の相乗効果により対象パーティクルの種類を選ばず、フッ素系・水系洗浄剤と比較して高い除去性を発揮できる。実際にいくつかの物性の異なるパーティクルを模擬的に付着させた試験サンプルを準備し、それぞれの洗浄剤で除去性の比較試験を行った。その結果、表2に示すように各種パーティクルに対して良好な除去性を示した。

表2. パーティクル除去性比較評価結果

洗浄対象物  洗浄前  マイクロクリン
FPS-4712
マイクロクリン
FPS-4700
フッ素系
洗浄剤
水系洗浄剤
皮脂+皮脂片
平均粒径:約20um

-




1
皮脂+タルク
平均粒径:約0.5um

-




×
アルミナ
平均粒径:約3um

-




除去率評価基準 ◎:99%以上/○:98~90%/○1:89~70%/△:69~40%/×39%以下
洗浄条件 超音波45kHz/300W、50℃/1min洗浄

4.洗浄装置「マイクロクリーナー® FPS」

  マイクロクリン FPSの性能を最大限発揮するように設計された専用の洗浄装置がマイクロクリーナー® FPSである。マイクロクリン FPSのリンス不要で一液運用可能な特長から洗浄槽と乾燥槽の2槽構成と、超音波洗浄方式を基本としている(図3)。


図3.マイクロクリーナー® FPSのモデル図

  パーティクル洗浄用途においては、除去対象の粒子径と適した超音波の周波数は相関があると言われている5)。40kHz以下の周波数帯はキャビテーション効果による強い衝撃力によって、強固に付着した数十μm以上の比較的粒径の大きいパーティクルの除去に効果的である。一方で周波数の上昇に伴ってキャビテーション効果から、分子加速度運動によって生じる直進流による洗浄作用が支配的となり、洗浄剤の構成分子が洗浄対象物に衝突する力で洗浄が進行するため、数μm以下の微細なパーティクルの除去に適している。しかし、対象粒径に合わせた超音波機器を洗浄槽に単純に設置するだけでは十分な洗浄効果は得られず、超音波の伝搬を阻害し得るあらゆる外的要因への対策が必要である。マイクロクリーナー® FPSでは、一方向に均一で緩やかな液流(層流)を実現することで超音波の伝搬を阻害する泡かみや流速ムラを大幅に低減し、槽内の音圧を均一に維持している。

  洗浄品質の確保には、液中のパーティクル量を管理し、被洗浄物への再付着を抑制することが最も重要である。マイクロクリーナー® FPSでは、槽内に持ち込まれたパーティクルは、カスケード式のオーバーフローの液循環によって速やかに槽外へ排出される。また液循環経路には除去対象のパーティクル粒径から選定したフィルタを設置しており、全量ろ過方式によって短時間で効率的に液中パーティクルの除去が可能である(図4)。その結果、図5に示す通り、ろ過開始5分後には100%に近いパーティクルが洗浄槽内から除去され、製品への再付着の懸念もない。フィルタで除去しきれない一部の極微細なパーティクルや洗浄剤に可溶な汚れ成分は、装置に標準内蔵する連続蒸留再生器に濃縮し、系外へ排出することで洗浄槽は常に新液に近い状態に維持される。本システムで洗浄した製品は、外観検査法や液中パーティクルカウンタ法などの各分析方法において良好な結果を得ている。


図4.マイクロクリーナー® FPS 液循環フロー図

  

  


図5.槽内の液循環方式とパーティクル除去率の比較

5.おわりに

  本稿でご紹介した環境対応型パーティクル除去専用システム「マイクロクリーナー® FPS」は、適用可能な汚れの制約、環境負荷、乾燥性、部材影響といったフッ素系洗浄剤・水系洗浄剤のシステムが抱える様々な課題を解決し、お客様の洗浄品質改善にお応えできるものと自負している。

  今後はフラックス洗浄以外のパーティクル洗浄においてもお客様のご要望、ご期待に応えるべく時代に先駆けた研究開発を継続し、より高付加価値な商品を市場に提供することで、ものづくり現場に貢献していく所存である。

参考文献

  • 1) 花田、洗浄の辞典、pp.260-261、朝倉書店(2022)
  • 2) 石原、超音波テクノ、pp.20-24、日本工業出版(2024)
  • 3) 堀、オレオサイエンス、第6巻第3号、pp.111-118(2016)
  • 4) 平野 et al、IEEJ Trans. SM, Vol. 133、pp.157-163、電気学会論文誌(2013)
  • 5) 橋本、日本音響学会誌 61巻3号、pp.160-165(2005)

【出典】
産業洗浄 2025年5月31日発行 第35号 (日本産業洗浄協議会)

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