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技術資料

第1節
洗浄剤

第2節
プリント配線板
実装用機器

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第1節 洗浄剤
6.1 メタルマスク洗浄剤

はじめに

 エレクトロニクス実装におけるソルダペーストの供給方式としては、ディスペンス方式、印刷方式(メタルマスク)、ピン転写方式が挙げられる。中でも生産効率のよいメタルマスクを用いた印刷方法が主流となっている1)。近年の高密度実装における回路パターンのファインピッチ化と実装部品の小型化(0603チップや0402チップの搭載)により、印刷工程で使用するマスクの開口部はますます微細狭小化が進んでいる。そして、微細狭小化にともない開口部端面に残ったソルダペーストや微細なはんだ粒子が、印刷不良や実装不良の原因となる事象が多くなり、改めてメタルマスクの洗浄が重要視され見直されるようになってきている。
 本項の前半では、メタルマスクにおける洗浄剤の 要求特性、各種洗浄剤の特徴について、後半では代表的なメタルマスクの洗浄方式について解説する。

6.1.1 洗浄対象物
 洗浄対象の汚れとなるのは、繰り返し使用されるメタルマスクに付着したソルダペーストである。印刷精度や品質面からメタルマスクは使用後だけでなく、一定の印刷処理回数ごとに洗浄を行い、マスクの開口部に蓄積したソルダペースト成分を除去する必要がある(図6.1.1)。
 使用するソルダペーストは、鉛フリー化による高温特性改善(熱によるダレ防止)のためチキソ剤の種類が高融点の材料へと変わり、ぬれ性向上、印刷時における安定性確保のため活性剤の改良がなされている。加えて近年のハロゲンフリー化、メタルマスクのファインピッチ化への対応で、これらのチキソ剤、活性剤は更なる改良・増量がなされており、洗浄がより困難になっている場合が多い。したがって従来問題なく洗浄できていた洗浄剤でもソルダペースト変更の際は、必ず洗浄性の確認をしておく必要がある。

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図6.1.1 メタルマスク開口部に付着したソルダペースト


6.1.2 洗浄目的
 印刷工程において以下の問題発生回避を目的とするためにメタルマスクに付着したソルダペーストを洗浄する。
①ソルダペーストの供給不良
 マスク開口部端面にソルダペーストが残留固化することにより目詰まりが生じ、供給量不足や固化したソルダペーストが混入し多量に供給されるなど安定したソルダペーストの供給ができなくなる。
②ソルダペーストの不要箇所への付着
 目詰まりしたソルダペーストがマスク裏面(基板側)に回り込むと、不要箇所に付着しブリッジ発生などのはんだ付け不良を招く原因となる。
③ソルダペーストの他品種混入
 使用されるソルダペーストの品種変更時にマスクに残留すると、鉛フリー対応の機種に鉛が混入する危険性が生じる。

6.1.3 メタルマスク洗浄剤の要求特性
 前述の問題発生を回避するためにメタルマスク洗浄剤は、以下の要求や条件をクリアしているものが求められる。
①ソルダペーストに対する溶解性が高いこと
 メタルマスクの洗浄は、イソプロピルアルコール(以下IPAという)を用いて、ブラシやウエス等により手拭きでの洗浄を行なっている現場も見受けられる。手拭きの場合はIPAの様にソルダペーストに対する溶解力が低くても、物理的な作用が強いために見た目には洗浄できている場合が多い。しかし、マスク開口部の微細狭小化にともない、溶解力の低い洗浄剤を用いた場合、手拭きの物理的作用の効果が十分に得られ難く、ソルダペーストが開口部に残留するなど洗浄品質のバラツキが多くなる。
 洗浄機を用いた場合も同様、溶解力の低いことによる洗浄品質の低下や、洗浄時間を必要以上に要する場合がある。
②部材への影響が少ないこと
 メタルマスクは、ステンレスやニッケルメッキを施したメタル版をアルミなどの金属フレームにコンビネーションを介してテープで張り合わせ固定した構造である2)。マスク開口部のみに洗浄剤が接触するような洗浄方式の洗浄機を用いる場合以外は、ソルダペーストに対する溶解性を確保しつつ、コンビネーションや版枠と固定テープとの接着層への影響が少ないという相反する条件を両立する洗浄剤の選定が必要となる。版枠と固定テープとの接着層へ洗浄剤が浸透して接着強度が低下すると、版のテンション低下による印刷不良、版剥がれのトラブルを引き起こす。
③人体、環境への負荷が低いこと
 前記①、②を満足した上で、人体、環境への負荷がより低いことが重要であるが、洗浄剤に含まれる水以外の化学物質は、低臭気のものから刺激臭のものまで、それぞれ特有の臭気を有している。一般的に洗浄剤は作業環境上、無臭または低臭気のものが求められるが、無臭または低臭気成分が人体、環境への負荷が低いとは限らないため、特に無臭のものは安全対策上好ましくない。
④各種法令に該当しないこと
 労働安全衛生法施行令有機溶剤中毒予防規則(以下、安衛法有機則という)や、化学物質管理促進法(以下、PRTR法という)をはじめとした各種法令に該当する場合は、各種届出や管理が必要となる。安衛法有機則に該当する場合は、局所排気装置の設置などの洗浄以外でのコスト負担が大きくなるため、各種法令に該当しない洗浄剤を選定するのが好ましい。
⑤トータルコストが安いこと
 洗浄剤の価格だけでなく、洗浄剤の寿命(汚れ混入による溶解性の低下)による液交換頻度やリサイクル性も含めてトータルコスト評価が必要である。

6.1.4 洗浄剤の種類3)
 メタルマスク洗浄剤は主成分に用いられる化学物質の種類によって以下に分類され、それぞれに特徴を有するので以下に解説する。

(1)グリコールエーテル系洗浄剤

 メタルマスク洗浄剤において最も市場実績が多いのがグリコールエーテル系洗浄剤である。
図6.1.2にグリコール及びグリコールエーテル類の構造式を示した。これらの溶剤は、分子内に疎水基(親油基)であるアルキル基と、親水基であるエーテル基や水酸基を有している。ソルダペースト中のフラックス成分に含まれるロジン樹脂などの非極性(親油性)化合物と、活性剤などの極性(親水性)化合物の双方に対して適した溶解性を有する。
 一般的にエチレングリコール系は比較的臭気が低く使用実績も多い。しかし、低沸点の一部のエチレングリコール系については、生体内で代謝したときの生殖毒性、催奇性などが懸念され4)、作業環境での許容濃度が厳しく規制されているものや、PRTR法に該当するものがある(表6.1.1)。プロピレングリコール系は臭いがやや強いものの、生殖毒性や催奇性等の毒性がエチレングリコール系と比較すると低いため需要は増大している。ジアルキルグリコール系は溶解力が他の2種と比べると高く、低臭気であるが、比較的高価なため溶解助剤として用いられる5)
 これらのグリコールエーテル系溶剤を主成分とし、引火点を有するため消防法の規制を受ける危険物型の洗浄剤と、水が配合され消防法上の適用除外となる非危険物型の洗浄剤とに分類される。
 危険物型のグリコールエーテル系洗浄剤は、沸点が120~170°C程度で比較的乾燥性が良く、一液で使用可能なものが多い。
 非危険物型のグリコールエーテル系洗浄剤は、水を配合して引火点をなくすため、高沸点溶剤の配合量が多く、洗浄剤の乾燥が困難なため、水すすぎを十分行ってから乾燥する必要がある。洗浄剤がメタルマスクの版枠接着剤層へ浸透し高沸点成分が揮発せずに残存すると、接着剤を侵して版剥がれを起こす可能性があるので注意を要する。比較的低沸点溶剤を用いた水すすぎが必要のない洗浄剤もあるが、引火点を無くすため水を多く配合しており溶解性が劣るものが多い。いずれも、洗浄剤中の水分が揮発すると引火点が発現し、消防法上危険物となる恐れがあるため、洗浄剤の水分濃度管理が重要である6)

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図6.1.2 グリコールおよびグリコールエーテル類の構造式



表6.1.1 作業環境内許容濃度規制が厳しいグリコールエーテル系溶剤
化学名および構造式 別名 日本産業学会許容濃度(2010年度版) ACGIH※許容濃度(2010年度版) PRTR法 安衛法
有機則
エチレングリコールモノメチルエーテル
CH3-O-CH2-CH2-OH
2-メトキシエタノール、メチルセロソルブ 0.1ppm 0.1ppm 第一種指定化学物質 第2種有機溶剤
エチレングリコールモノエチルエーテル
C2H5-O-CH2-CH2-OH
2-エトキシエタノール、セロソルブ 5ppm 5ppm 第一種指定化学物質 第2種有機溶剤
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート 
CH3-O-CH2-CH2-O-CO-CH3
2-メトキシエチルアセテート、酢酸メチルグリコール 0.1ppm 0.1ppm 第一種指定化学物質 非該当
エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート C2H5-O-CH2-CH2-O-CO-CH3 2-エトキシエチルアセテート、セロソルブアセテート 5ppm 5ppm 第一種指定化学物質 第2種有機溶剤
エチレングリコールモノブチルエーテル
C4H9-O-CH2-CH2-OH
2-ブトキシエタノール、ブチルセロソルブ 未設定 20ppm 非該当 第2種有機溶剤
※ACGHI(TheAmericanConferenceofGovermentalIndustrialHygienists:米国産業衛生専門家会議)が勧告した空気中の化学物のTWA値(1日8時間、1週40時間の時間荷重平均濃度で、ほとんどすべての労働者が毎日繰り返し暴露されても健康に悪影響を受けない濃度)。

(2)アルコール系洗浄剤

 手拭き用洗浄としてエタノールやIPAなどの低級アルコールが多く使用されている。グリコールエーテル系洗浄剤と比較すると溶解性が劣るが、安価であり、汚れた液は蒸留再生を行うことで汚れ物質を分離除去し、液の再利用が可能であるため、ランニングコストも低くなる。しかし、可燃性で引火点が低く、消防法第4類アルコール類に該当し、引火に対する安全対策を講じる必要がある。(IPAの引火点;11.7°C/密閉式測定法)
 またIPAは安衛法有機則の「第2種有機溶剤」に該当し、作業環境濃度を管理すると共に局所排気などの措置が必要となる。

(3)炭化水素系洗浄剤

 炭化水素系洗浄剤は化学構造から、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系に分類される。ソルダペーストに対する溶解力は、芳香族>ナフテン>パラフィンの順。臭気の少なさは、パラフィン≧ナフテン>芳香族の順である。乾燥性はそれぞれの分子量・沸点範囲で決まる。グルコールエーテル系洗浄剤に比べ安価であるが、ソルダペーストの種類によっては溶解力不足が生じる場合がある。また、引火点がある上、高引火点のものでも帯電しやすい性質を持つため、静電気爆発に対する対策を講じる必要がある。版枠接着剤への影響も溶解力に比例し、芳香族>ナフテン>パラフィンの順となり、グリコールエーテルやアルコールよりも影響が大きい。
 溶解力が高い芳香族系炭化水素に対しては、トルエン、キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン(メシチレン)などPTRT法の対象物質となっているものが多かったが、2010年10月から施行の改正PRTR法において、クメン、1,2,4-トリメチルベンゼン(プソイドクメン)など新たに追加され、大半の物質が規制対象となっている。

(4)ケトン、及びエステル系洗浄剤

 アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤や、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、乳酸エチルなどのエステル系溶剤は単体または複数成分を配合して手拭き用洗浄剤として用いられることが多く、合成樹脂の溶解力に優れている。しかし、特有の臭気を有し、揮発性が高く極めて引火しやすい。また版枠接着剤の影響も大きい。
 PRTR法、安衛法有機則の「第2種有機溶剤」、または消防法に該当するものが多く、各種法令に従い適切に使用管理する必要がある。

(5)臭素系洗浄剤

 現在市販されている臭素系洗浄剤は、1-ブロモプロパン(n-プロピルブロマイド)が主成分である。以前は構造異性体である2-ブロモプロパン(イソプロピルブロマイド)が使用されていたが、生殖機能障害などの懸念から社会問題となり、現在はほとんど使用されていない。1-ブロモプロパンを主成分とした臭素系洗浄剤は水より重い無色透明の液体であり、1,1,1-トリクロロエタン(塩素系溶剤)と同様に不燃性で、リサイクル可能といった特長を有している。一方、PRTR法第一種指定化学物質に該当し、作業環境濃度基準以下での運用が必須で、管理と取り扱いに対して注意が必要である。

(6)水系洗浄剤

 水系洗浄剤は、水に界面活性剤やアルカリ剤を添加したものや、電解水等の機能水がある。
 引火の危険性がない、VOC成分を含まない、臭気がないといった利点がある。一方、ソルダペーストの種類によっては、溶解性が溶剤系の洗浄剤と比較して劣る場合が多いため、超音波照射や洗浄剤の高圧噴射など物理力を併用し洗浄性を確保する必要がある。
 水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機アルカリを含むアルカリ洗浄剤は、皮膚、目への付着防止など取り扱いに際して、安全対策を講ずる必要がある。また、ソルダペーストの版抜け性など印刷性向上の目的で、電解、蒸着、樹脂コーティングなどの表面処理を施したメタルマスクを洗浄する場合、アルカリの作用によりこれらの表面処理を侵す場合があるので注意しなければならない。また、水すすぎが不十分であった場合、マスク表面に残留したアルカリ剤が基板側へ付着し基板の回路特性の低下や、金属腐食等の悪影響をもたらす可能性が高い。

6.1.5 洗浄方式
 メタルマスクの洗浄は、実装ラインの印刷工程の近くで、IPAなど揮発性が高い洗浄剤を用い手拭きで洗浄している場合と、手動式または自動式の洗浄機を用いて洗浄が行われている場合とがある。
 手拭きによる洗浄は安価で簡便ではあるが、洗浄精度と作業環境上の大きな問題を含んでいる。
 洗浄精度の問題に関しては、微小な開口部端面などの物理的作用の効果が効き難い箇所の洗浄性確保が難しくなり、作業者による洗浄精度のバラツキが生じやすい。さらに手拭きによってマスク開口部の変形や、マスク表面に傷をつける可能性もあるので注意が必要である。また、手作業で洗浄剤を取り扱い、溶剤雰囲気下での作業を余儀なくされるため、作業環境上の問題が生じやすい。
 大掛かりな洗浄機は必要ないが、洗浄性は確保したいというユーザーは、洗浄液の溶解力とスプレー圧で洗浄する洗浄スプレーや、小型ハンディ超音波機(図6.1.3)を使用しているケースがある。
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図6.1.3 小型ハンディ超音波洗浄機7)

 洗浄機については、シャワーによる洗浄方法、洗浄剤中に浸せきし超音波を照射する方法、また超音波をメタルマスクに直接当てる方法など、各種洗浄機が上市されている。洗浄機には洗浄品質はもちろんのこと、環境への配慮と導入によるコストメリットが求められる。洗浄機を導入しても、大量の洗浄剤を使用し洗浄を行なうと、環境への負荷も大きく、ランニングコストも高くなる。そのためできるだけ少量の洗浄剤を使用して洗浄を行なったほうが良い。また洗浄時間が長いと、洗浄剤の揮発量が多くなる上、長時間洗浄剤に晒されることによる版枠への影響が出てくる。
 これらのことから、洗浄はできるだけ短時間で、洗浄剤は少量で行なうのが好ましく、洗浄機もそれを実現できる設計が求められる。
 洗浄のメカニズムは各方式で異なり、その洗浄機に最適な洗浄剤の選定が必要である。以下に代表的な洗浄方式を紹介する。

(1)シャワー洗浄方式

 シャワーによる洗浄方式は、ノズルから洗浄剤を高速で噴射し被洗浄物に当て、流体の衝突力と溶解力を利用し洗浄を行なう。マスク全体に洗浄剤がかかる場合は版枠テープの剥がれ、高圧スプレーで洗浄する場合はマスクの変形に注意する必要がある。また洗浄機自体もスプレーむらを解消するために、スプレーノズルの選定や、スプレーノズルもしくはマスク自体を移動させる機構などが必要となる。

(2)浸せき式超音波洗浄方式

 洗浄剤中にマスク全体を浸せきし、超音波を照射する方式。洗浄剤中に超音波を照射したときに生じるキャビテーションの作用で洗浄を行なう。マスクのサイズにもよるが、初期建浴量が多くなる場合、危険物の洗浄剤は指定数量管理に注意が必要となる。また洗浄槽内のキャビテーション効果に強弱ができるので、マスクを揺動させて洗浄性の均一化を図る必要がある。さらに洗浄したい部分以外にも超音波が照射されるので、アルミ製のフレーム、アルミテープ、接着剤への影響も注意が必要である。

(3)非浸せき式超音波洗浄方式(図6.1.4

 超音波をメタルマスクに直接当てる方式は、マスクの表裏に洗浄剤をかけ流し、液膜を介して超音波振動をマスクに伝え、洗浄を行なう。使用する洗浄剤は、マスクの表裏全体にかけ流す量だけで済むので、少なく抑えることができる。また超音波は、距離に反比例し減衰する特性があるが、直接マスクに超音波を照射することで、距離による影響をなくすことができる。そのため出力を抑えても超音波の効果が得られ、浸せき式超音波方式と比較して半分以下での出力でも洗浄効果が得られる。加えてマスクへのダメージを低減することができると共に洗浄剤の消費量と電力消費を削減でき、ランニングコストを抑えることが可能である。
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図6.1.4 非浸せき超音波洗浄方式7)

6.1.6 乾燥方式
 洗浄またはリンス後の乾燥はエアブローによる乾燥が主流である。メタルマスク洗浄剤は沸点200°C以下の成分で構成されているものが多く、併せて局所排気装置にて屋外排気を行っていることから、VOC成分の大気放出量が課題となる。装置側でのVOC成分排出量抑制の対策と共に、使用する洗浄剤におけるVOC成分の含有量低減が望まれる。

おわりに

 メタルマスクの洗浄においては洗浄対象となるソルダペーストの洗浄性だけでなく、メタルマスクへの影響、環境への影響、洗浄後の品質などトータルで考える必要がある。今後更なるファインピッチ化の対応に伴うメタルマスクの洗浄品質要求や、環境負荷低減の要求がますます高くなることが容易に予想できる。これらの要求は適切な洗浄剤と洗浄機の組み合わせができてこそ満足させられるものであり、各項目を十分考慮し選定することが重要である。
〈赤松 悠紀/堀 薫夫〉

【参考文献】

1)㈳日本溶接協会、マイクロソルダリング教育委員会:標準マイクロソルダリング技術第3版、
  日刊工業新聞社、(2011),p.114
2)㈳エレクトロニクス実装学会:エレクトロニクス実装大事典、工業調査会、(2009),p.609
3)日本産業洗浄協議会:産業洗浄剤リスト[2009年度版]、日本産業協議会、(2009)
4)長野嘉介、中山栄基、小谷野道子、大林久雄、安達秀美、山田勉:エチレングリ
  コールモノアルキルエーテル類によるマウス精巣の萎縮、産業医学、(1979),p.21:29-35
5)堀薫夫:すぐ使える洗浄技術、工業調査会、(2001),p.273
6)居森奈穂子:電子材料、4月号、(2000),p.105
7)井上晃男:エレクトロニクス高品質スクリーン印刷の基礎と応用、
  シーエムシー出版、(2011),p.175

6.2 フラックス洗浄剤

はじめに

 エレクトロニクス実装でのソルダリングではほとんどの場合フラックスを必要とする。このフラックスに起因した洗浄ニーズとして、①ソルダリング後のプリント回路板上に残存したフラックス残渣の洗浄、②リフロー炉内に付着堆積したヤニの洗浄、③フローソルダリング用パレットに焼付き堆積したフラックスの洗浄、④フラクサーの周辺機器、治工具に付着したフラックスの洗浄などが挙げられる。これらニーズの中でも、特に高度な洗浄技術を必要とする①のプリント回路板上のフラックス残渣洗浄を目的とした洗浄剤に限定し、本節では「フラックス洗浄剤」とする。また、フラックス洗浄剤の一般論や分類等に関する書籍は数多く出版されているので1)~3)、ここでは割愛する。
 エレクトロニクス実装技術においては、接合技術が重要な役割をになっており、実装現場においても、年々化学物質に関する規制が強化され、エネルギー・環境負荷の低減が不可避の中、フラックス洗浄の意義が問われる現状となっている。一方で高集積化、高速度化の進化はとどまることがなく、電子回路にとって異物以外の何物でもないフラックス残渣の回路特性に与える影響は無視できなくなっており、より高いレベルの洗浄技術が求められている。
 このような中、本項の前半では、フラックス洗浄剤の変遷、フラックス洗浄の目的や本来の意義について、後半では、現在の実装現場で最も使用実績が多いフラックス洗浄剤であるグリコールエーテル系洗浄剤を中心に現状技術と今後の課題について解説する。

6.2.1 フラックス洗浄剤の変遷
 初期のフラックスは塩酸を含むものなど強い金属腐食性があり、直ちに水洗、乾燥が必要であったが、1960年代にロジン系フラックスの登場でソルダリング後の信頼性が大幅に向上し、無洗浄が一般的となった。しかし、1970年代後半から電子機器は一気に軽薄短小化が進み、表面実装が主流となる中、プリント回路板の信頼性に対する要求水準が高まり、再びフラックス洗浄のニーズが強くなってきた。このタイミングに米国デュポンが工業化したフッ素化合物の一つ、CFC-113が不燃性、速乾性、絶縁性で化学的に極めて安定で安全な「魔法の液」として精密洗浄用に日本市場に登場した。この液体こそが、いわゆる「フロン」であり、オゾン層破壊の元凶とされ1995年末に生産全廃となるまでの約20年間、フラックス洗浄剤の標準となり、エレクトロニクス実装工程にフラックス洗浄を完全に定着させた。
 ただ、フロンがその普及とともに安価になったこと、フロンの特性から洗浄機もあまり高度な技術を必要とせずコンパクトで安価だったこと、更に日本の電子業界全体が旺盛な成長拡大期であったことから、フラックス洗浄の必要性や洗浄による回路の品質をあまり議論されることもなかった。
 これが、フロン全廃とバブル崩壊という日本経済の急落が重なり、フラックス洗浄の大転換期を迎えることになった。同時に全廃となった塩素系溶剤トリクロロエタンも金属洗浄を中心にほとんどが洗浄用途であり、フロンとあわせ、約30万トン/年の新たな洗浄剤市場が生まれるため、化学メーカーを中心に約300社が、この新規洗浄剤市場に参入し、1988年から1995年の期間は、まさに洗浄市場が戦場となった。
 この期間に実装業界も改めて、フラックス洗浄の必要性や洗浄の品質評価について真剣に検討し、またはんだメーカー各社の無洗浄化フラックスの開発努力もあり、多くが無洗浄工程へと転換していった。ただ、高い信頼性を要求される車載機器や高周波部品、高密度実装が進化し続ける半導体パッケージなどでは、洗浄は重要な工程の一つとなっている。

6.2.2 フラックス洗浄導入の目的
 フラックス洗浄を導入した企業は、フラックス残渣による以下の問題発生回避を目的とする場合が多い。

(1)ボンディング不良

 後工程でワイヤボンディングや金フリップチップボンディングをする場合、金パッド等の電極にフラックス残渣の有機物被膜が僅かでも残存すると、必要なボンディング強度が確保できず、ボンディング不良となる危険性が高くなる。そのためフラックス残渣を完全に洗浄除去することが重要である。ただし、洗浄方法によっては、洗浄剤成分の残留やフラックス残渣成分の再付着等によって、かえってボンディング強度を低下させる原因となるので注意が必要である。

(2)樹脂の塗布性・硬化阻害

 後工程でソルダリング面にアンダーフィルやモールド樹脂などを塗布する場合、フラックス残渣が存在すると、残渣中の金属石鹸やワックス類により樹脂のぬれ性が阻害されボイドが発生したり、フラックス中のアミン化合物等により樹脂の硬化不良が生じることがある。

(3)はんだボール

 フラックス残渣とは異なるが、印刷時やプリヒート時に発生したダレや飛散によって生成したはんだボールを除去し、リークやショートなどの電気的不良を取り除く。はんだボールの飛散は、はんだの急激な加熱により、フラックス中の溶剤分(水分)のガスが膨張して、フラックスがはんだと共に飛散することで発生する。

(4)絶縁信頼性の低下

 現状のフラックスは、ソルダリング後のフラックス残渣の絶縁信頼性が高いものが多く、絶縁信頼性の低下を理由に洗浄する事例は少ない。しかし、一部には水溶性フラックスが使用されており、このフラックス残渣は吸湿性と金属腐食性が高く、直ちに温水等で洗浄、乾燥しなければ、絶縁信頼性を確保できない。また、水溶性フラックスによっては、そのソルダリング後の残渣が温水では十分に洗浄できず、適切な洗浄剤で洗浄する必要があるものもある。今後、VOCレスが進む中、このような事例が増えてくるものと考えられる。

(5)接点接続不良

 フラックス残渣はロジン等の絶縁体を含んでいるため、コネクタ等の接点に付着し、接触不良を引き起こす場合がある。ただし、コネクタの接点部等袋小路の形状では、洗浄工法を誤ると、洗浄によってかえって接点を汚す場合があるので注意が必要である。

(6)検査精度の低下

 接合部がフラックス残渣で覆われていると、はんだ不良であるブローホール等の発見、はんだの光沢、フィレット形状の確認などの外観検査がしにくくなる。インサーキットテスタやファンクションテスタのフィクスチェアピンに、フラックス残渣が付着すると接続不良となり、電気検査時の検査効率を低下させる。

6.2.3 フラックス洗浄本来の意義
 前述した様々な理由でフラックス洗浄が導入されているが、実装現場では環境改善、コストダウンの目的から、実装工程やソルダリング条件の見直し、フラックスの改良等により常に無洗浄化の検討がなされている。
 しかし、フラックスは接合金属表面に存在する金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩などと化学反応し、金属酸化物、金属錯体、有機酸金属石鹸などの可融・可溶性化合物に変化させ、流動性を与えることにより、はんだとのぬれ性、合金形成を促進する役割をもつ極めて活性の高い材料であること。加えて、露出した金属表面の再酸化を防止するロジン等の樹脂で構成され、これらの化学材料がソルダリング工程で激しく化学反応し、200°Cを超える、有機物にとって極めて高温下に晒されてフラックス残渣が生成される。これらのフラックス残渣をプリント回路板に残し、回路設計者が狙う安定した電気特性、回路定数を維持できるとは考えにくい。また、接合金属表面の酸化状態も部位や材質により異なる上、熱伝導度の低い樹脂部品が色んな形態で接合付近を囲っており、ソルダリング時の加熱状態の差異もあり、フラックス成分を全て完全反応させることは困難である。更に、近年の鉛フリー化によるソルダリング温度の高温化でフラックスの活性を持続するために活性度を高めざるを得ない。また、ハロゲンフリー化により、微量で活性が強かったハロゲン成分に替わり、活性の低い有機酸等の活性剤成分の配合量を増やしており、フラックス残渣の電気特性をプリント回路板の絶縁材料の水準に維持することは極めて困難である。
 また、フラックスが比較的極性が低く誘電率も低い変性ロジンなどの樹脂をベースに、極性が高く誘電率も高い活性剤成分とで構成されており、ソルダリング後のフラックス残渣も誘電率が異なる成分同士が多くの接触界面をもつ混合体である(図6.2.1)。更に、近年の高周波、高速度化に対応したプリント回路板材料は、低誘電率化を図っており、低誘電率回路板上の狭ピッチ回路間に、誘電体と言えるフラックス残渣が浮遊容量として存在し、交流電場に置かれた場合、界面分極が起きることが確認されている1)
 今後ますます、高密度化、高速度化、高周波化が進む中、フラックス残渣の電気特性がプリント回路板の電気特性に追随できない以上、回路上に残存しておくべきではなく、適切な洗浄によって、本来の回路特性を確保することが重要である。

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図6.2.1 ソルダリング後のフラックス残渣の成分

6.2.4 フラックス洗浄剤の設計ポイント
 フラックス洗浄剤を設計する上で、以下の多くの相反する要求や条件をクリアしておく必要があり、産業用洗浄剤の中でも高度な設計技術が必要な分野である。
①洗浄工程の前後においてプリント回路板の電気特性を変化させないこと。
②極性や溶解度パラメーター(SP値)が大きく異なる複合成分であるフラックス残渣に対する
 広範囲な溶解性をもつこと(図6.2.2)。
③実装される電子部品などプリント回路板上の各種部材に悪影響を与えないこと。
④適切な作業環境下において、人や環境への安全を確保できること。
⑤使用制限が厳しい関係法令に該当しないこと。
⑥液劣化が少なく、より洗浄寿命が長い方が好ましい。
⑦リサイクル可能な洗浄剤が好ましい。
⑧安定供給が可能であり、導入可能なコストに抑制できること。

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図6.2.2 フラックス残渣のSP値
SP値:溶解度パメーター(SolubilityParameter)
物質の溶解性を示す指標であり、溶剤のブレンド性、濡れ性、ポリマーや生体高分子の液体への溶解性の評価が可能。溶解度パラメーターが近い物質同士は混ざりやすい傾向を持つ。そのためSP値は溶質と溶媒の混ざりやすさを判断する目安となる。


 以上の中でも、②、③、⑤はトレードオフの関係にあり、これらの両立は技術的難易度が極めて高い。特に化学物質に関する法令、規制が強化され、使用可能な化学材料が制約されており、その中からプリント回路板上の多種多様な部材に影響を与えないことを考慮すれば、更に限定される。一方、はんだの鉛フリー化、ハロゲンフリー化によって、フラックス残渣が難溶化しており、洗浄剤の溶解力を高める必要がある。一般に溶解力が高い材料は化学的活性力も高く、生物や環境、部材への影響は出やすい。
 また、フラックス残渣が部品下など狭ギャップ内に残存する場合は、洗浄剤の溶解力が高いとフラックス残渣が急激に膨潤し、部品下が高粘度液状となり排出されにくく、かえって洗浄できなくなる事例がある。このような場合も想定し、ただ溶解力を高めるだけでなく、むしろ溶解力は低いが、系全体の粘度を下げる助剤を添加するなどの工夫が必要である。このような複数の洗浄剤成分の配合技術によってフ、ラックス残渣に対する溶解力を確保しつつ、プリント回路板部材への影響を抑制するなど、相反する要求をクリアしていくことが洗浄剤設計に必要である。しかし、洗浄剤のみで全ての要求を満足することが困難な実装形態も増えており、フラックス洗浄剤の特長を最大限に引き出し、弱点を抑制することができる、最適な洗浄機との組合せが解決の重要な鍵となる。

6.2.5 グリコールエーテル系洗浄剤
 フロンが全廃になり、多種多様なフロン代替洗浄剤が検討されたが、現在、日本の実装市場におけるフラックス洗浄剤では、「パインアルファ」、「クリンスルー」、「マイクロクリン」の使用実績が大半を占める。これらのフラックス洗浄剤に共通するのは、主成分がグリコールエーテル類であることである。
 グリコールエーテルとは、6.1のメタルマスク洗浄剤の項でも触れているが、2価アルコールであるグリコールの片側の水酸基または両側の水酸基をエーテル化した構造であり、工業的には、ブタノールなどのアルコールを出発原料に、エチレンオキサイド(EO)またはプロピレンオキサイド(PO)を付加して合成される。工業的に生産されているグリコールエーテル類の一部を表6.2.1に示す。

表6.2.1 工業的に生産されているグリコールエーテル類の一部
  化学名 略称 沸点
1013hPa(°C)
引火点(°C)
E.O.系 ジエチレングリコール
モノブチルエーテル
BDG
230.6
120
トリエチレングリコール
モノブチルエーテル
BTG 271.2 156
エチレングリコール
モノイソブチルエーテル
iBG
160.5
56.5
エチレングリコール
モノヘキシルエーテル
HeG
208.0
102
ジエチレングリコール
モノヘキシルエーテル
HeDG 259.1 141
P.O.系 プロピレングリコール
モノメチルエーテル
PGM
121.0
32
ジエチレングリコール
モノメチルエーテル
MFDG
187.2
76.5
プロピレングリコール
モノプロピルエーテル
PFG
149.8
48.5
ジプロピレングリコール
モノプロピルエーテル
PFDG
212.0
108
プロピレングリコール
モノブチルエーテル
BFG
170.2
61.5
ジプロピレングリコール
モノブチルエーテル
BFDG
230.6
117
プロピレングリコール
モノメチルエーテル
アセテート
PMA 146.0 48
ジアルキルグリコールエーテル ジエチレングリコール
ジメチルエーテル
DMDG
162.0
56
トリエチレングリコール
ジメチルエーテル
DMTG
216.0
113
ジエチレングリコール
ジエチルエーテル
DEDG
188.9
70.8
ジエチレングリコール
ジブシルエーテル
DBDG 254.6 122
その他 3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール
MMB
174.0
68
3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート MMB-Ac 188.0 75.5
(注:沸点、引火点はメーカーによって多少異なる)

 グリコールエーテルは、分子内に極性と非極性の両特性を併せもち、また多様なグリコールエーテルの組合せによって、広範囲なSP値をもつフラックス残渣に最適な溶解性をもつ設計が可能である。また、グリコールエーテル自体は引火点をもち、消防法危険物に該当するが、水との混合により消防法の危険物に該当しない洗浄剤設計も可能となる。更に水と溶解したグリコールエーテルは、温度を上げると水に不溶化する曇点を有し、この特性を活用して、リンス水の洗浄剤成分を分離除去して水を再利用する油水分離型の洗浄剤として実用化されている。
 グリコールエーテルの問題は、高温下で酸化分解しやすい点である。特にフラックス洗浄剤として用いた場合、フラックス中の有機酸との共存下で酸化分解が促進され(図6.2.3)、蟻酸などの有機酸が生成し、これが更に分解を加速する4)。また有機酸の発生は、プリント回路板上の金属腐食やマイグレーションなどの品質不良を引き起こすため、グリコールエーテルを用いる場合、最適な酸化防止剤を配合し、通常の使用環境では酸化分解しないよう洗浄剤設計する必要がある。

611
図6.2.3 グリコールエーテルの酸化分解


6.2.6 リンス方式に応じた洗浄剤設計
 グリコールエーテル系洗浄剤は、安全上、高引火点で高沸点の成分で構成されているため、洗浄剤自体を乾燥除去することは困難なものが多く、乾燥性の高いリンス剤で洗浄剤を置換し、乾燥するプロセスが一般的である。また、プリント回路板が最も残留を嫌うイオン性物質をより完全に溶解除去する必要から、グリコールエーテル系洗浄剤のリンス剤として、水または水とアルコールを混合した含水アルコールを用いるのが最適である。
 水は安全面、環境面において最良のリンス剤であるが、グリコールエーテル類に比較し表面張力が高く、部品下など狭ギャップへの浸透性が低いため、洗浄剤に追随して置換することが困難である。また、フラックス残渣の多くの成分は水にほとんど溶解しないため、洗浄剤中に溶解しているフラックス残渣がリンス水に接触した瞬間、不溶成分が析出し、被洗浄物に再付着する。これらの問題は、洗浄剤中に界面活性剤等を配合することにより解決できるが、界面活性剤の種類により、リンス水が起泡しやすくなり、発生した泡がリンスを阻害し、リンス不足による洗浄不良を引き起こす要因となる。また、界面活性剤は、その機能からプリント回路板表面に吸着残留しやすく、吸湿性を付与するため、回路の誘電損失を引き起こす場合がある5)。また、水は、回路や電子部品の金属に対する腐食性が高いこと、微生物汚染しやすいことなどの問題もあり、これらを十分考慮した上で、適切な洗浄剤を設計する必要がある。
 実用化されている含水アルコールは、環境面、安全面から、酒精であるエタノールを主成分とし、水を40重量%強配合することにより消防法危険物に該当しない配合となっている。含水アルコールは、①グリコールエーテル系洗浄剤より表面張力が低くリンス性が高い、②フラックス残渣析出物の再付着が少ない、③洗浄剤に界面活性剤の添加が不要であり、洗浄前後で回路特性が変化しない、④乾燥性がIPAと同等で水より良好、⑤金属腐食性がほとんどない、⑥殺菌性あり微生物汚染しにくい、など水の問題点の多くを解決できる利点がある。しかし、含水アルコールは消防法の危険物に該当しないが、ウイスキーなど飲料用アルコールと同様、引火性を有するため安全に十分考慮した洗浄機でのみ使用する必要がある6)

6.2.7 フラックス洗浄剤の今後の課題
 マルチチップモジュール部品など、より高機能、高性能で小型化が求められる電子回路や電子部品などは、密集した回路上の回路特性や信頼性を確保する必要があることから、これまで以上にフラックス残渣等のわずかな異物の残留も許されなくなる。このため、今後ますますフラックス洗浄の重要度が高まってくると考えられる。同時にエネルギー・環境負荷の低減が不可避の中、より環境への排出、影響の少ないものも求められる。
 これらの要求に対し、洗浄剤だけで解決しようとするのではなく、洗浄方式の工夫や洗浄機との併用など、トータルで洗浄を捕らえ洗浄プロセスを構築していくことが重要である。
〈赤松 悠紀/堀 薫夫〉

【参考文献】

1)窪田規:~プリント配線板における~信頼性確立のためのポストフロン技術、トリケップス、(1993)
2)工業調査会:すぐ使える洗浄技術、工業調査会、(2001)
3)日本産業洗浄協議会:産業洗浄剤リスト[2009年度版]、日本産業協議会、(2009)
4)堀薫夫:すぐ使える洗浄技術、工業調査会、(2001),p.273
5)寺澤精朋:~プリント配線板における~信頼性確立のためのポストフロン技術、トリケップス、(1993),p.85
6)堀薫夫:すぐ使える洗浄技術、工業調査会、(2001),p.335


《第2節 プリント配線板実装用機器》
2.8 洗浄機

はじめに

 洗浄とは、被洗浄物本来の特性・品質を発現、維持できる水準まで、被洗浄物に付着している不要物(汚れ)を分離除去する操作である。液体を用いない乾式洗浄もあるが、ここでは、洗浄剤を用いる湿式洗浄に限定して“洗浄”という。
 また、生産工程における洗浄機とは、洗浄剤の汚れに対する湿潤、浸透、溶解、剥離、拡散、分離などの物理化学的作用をより効果的に発現し、品質目的および生産目的を果たせるよう、最適な洗浄プロセスを設計し、機械装置として具現化したものである。
 したがって、洗浄機を設計または導入する上で、汚れの形態・性状、被洗浄物の特性・形状、洗浄剤の性状を熟知し、被洗浄物の要求品質水準を明確にしておく必要がある。特に要求品質水準が高いプリント回路板用においては、個別に洗浄プロセスを設計する必要があり、実績のある洗浄剤を使用するから大丈夫だろうと、安易に汎用的な洗浄機を導入して品質が確保できず失敗に終わった事例は数多い。このような失敗を通じて、「洗浄工程はかえって品質悪化を招く」との誤った認識をもつケースもあるが、全ては洗浄プロセス設計を甘く見た結果である。
 本稿の前半では、フラックス洗浄のプロセスを設計する上での基本事項について、後半では、実装工程で実績のある代表的な洗浄システムと清浄度管理の実施例について解説する。

2.8.1 洗浄工程の設計
 洗浄対象となるフラックス残渣とフラックス洗浄剤については第3章第6節2で記載しており、本稿では割愛し、最適な洗浄剤を選定している前提で、以下洗浄工程について記述する。
 洗浄工程はフラックス残渣を洗浄剤によって湿潤、浸透、溶解、剥離、拡散により被洗浄物から効率的に分離する工程である。
 単に洗浄剤中に被洗浄物を浸せきするだけでも、フラックス残渣の除去は可能であるが、完全に除去するまでには膨大な時間を要し生産目的には適さない。そこで、洗浄剤の加温や、液流や超音波による物理的作用の付与などにより洗浄時間の短縮化を図っていくことが洗浄工程設計の第一歩である。また、洗浄工程を制御する因子を明確にし、洗浄品質のバラツキが生じないよう被洗浄物の実装構造に応じた装置設計を行なうことが重要である。
 洗浄速度は、フラックス残渣の溶解速度と洗浄剤に溶解したフラックス残渣の拡散速度に影響する。フラックス残渣に対する溶解力は洗浄剤に依存する ところが大きいが、洗浄剤の溶解力を維持し、洗浄速度を高めるためには拡散速度を高める必要がある。
 ここで、拡散に関する基本法則であるFickの第一法則を以下に示す。

 dm/dt=-D・A・dc/dx
 D:拡散係数
 (負号は拡散が濃度の減る方向へ起こることを示す。)

 Fickの第一法則では、面積Aの部分を横切って時間dt内にx方向へ拡散する物質の質量dmは、その平面における濃度勾配dc/dxに比例することを述べている1)
 すなわち、
 「拡散速度」=「拡散係数」×「濃度勾配」
 であり、濃度勾配が高くなるほど拡散速度が高くなることから、接触界面での液更新を促進し高い濃度勾配を維持することが洗浄速度を高めることにつながる。
 洗浄機において、液流により接触界面の液を連続的に短時間で更新し、拡散速度を高めるための方式として、洗浄槽内の液をポンプで循環させる循環噴流方式と、ポンプの吐出と吸込のエネルギーを散逸させず、洗浄剤を一定方向から被洗浄物に強制的に直接通液させる直通式洗浄方式がある。
 直通式洗浄方式は、被洗浄物を密集させ通液できる面積を狭くすることで、流速を大きくし隙間の洗浄効率を高める方式である2)。フリップチップ(Flip Chip)実装など狭い隙間の洗浄性が要求される基板や、比較的平坦な基板に対しては直通洗浄方式が好ましい。一方、多種多様の部品を搭載し複雑な表面をもつプリント回路板には、循環噴流方式のように乱流効果を利用して多方向から界面流動を与えるほうが洗浄性のバラツキが無く好ましい。また、少量多品種の洗浄を行なう場合、直通式洗浄方式は、被洗浄物の形状変化に合わせて、複数の専用バケットを用意する必要がある。
 循環噴流洗浄方式において、乱流の発生が洗浄効果を高めるための要因となるが、洗浄効果に著しい変曲点が現れるのは臨界レイノルズ数よりもはるかに高い領域(Re=26,000以上)である。(図2.8.1)乱流効果が得られる適切なレイノルズ数領域になるよう、循環量や循環流速を決める必要がある。

611
図2.8.1 レイノルズ数と洗浄効果の関係

 フラックス残渣の洗浄は表面に見える残渣の除去だけではなく、イオン性残渣の除去、外観検査が困難な部品下のフラックス残渣の除去も重要である。近年のフリップチップ実装に代表されるように、部品下の隙間が50μm以下も製品化されており、今後も隙間は更に狭くなっていくと予想される。これにより部品下に詰まったフラックス残渣と洗浄剤とが接触する開口面積が小さくなり、洗浄はより難化する方向に向かっている。同じソルダペースト、同じリフロー条件のフラックス残渣でも搭載する部品の大きさや種類によっても洗浄の難易度が違ってくる。多種多様の部品を搭載し複雑な表面をもつプリント回路板の洗浄は、最も洗浄時間を必要とする代表実装部品を選定し、その部品の洗浄条件設定が必要となる。特に部品下は洗浄後の破壊検査をしなければ確認できないために、安全率の高い条件設定が必要であり、洗浄速度を定量的に把握し、バラツキを正確に把握する必要がある。
 従来の回路表面に付着したフラックス残渣の洗浄は、前述の拡散速度の寄与が大きく、部品下の洗浄は溶解速度の寄与が大きくなってくる。拡散速度と溶解速度のメカニズムは異なるが、拡散係数Dと溶解反応速度式の速度定数kはArrheniusuの式と同じ形式で表すことができ以下の式で示される3)

 D=Aexp(-E/RT)
 k=Aexp(-E/RT)
  D
:拡散係数A:温度に無関係な定数(頻度因子)
  E:活性化エネルギー(アレニウスパラメータ)
  R:気体定数
  T:絶対温度

 上式より洗浄温度が高いほど拡散係数、溶解速度が比例し大きくなり、洗浄速度が高まることが分かる。加えて、固形のフラックス残渣を洗浄工程で溶解する場合は、洗浄温度を高めフラックス残渣を軟化させることで界面流動の効果を付与できる。
 図2.8.2に鉛フリーソルダペーストのフラックス残渣における洗浄温度と溶解時間の関係を示した。物理的条件(機械的条件)を一定にし、洗浄時間を測定すれば、洗浄速度を把握することができる。

611
図2.8.2 鉛フリーソルダペーストのフラックス残渣における洗浄温度と溶解時間の関係
       (リフロー条件:250°C×2分)

 フラックス残渣の洗浄工程において、溶解力の高い洗浄剤の選定はもちろんのこと、洗浄方式の熱力学に基づいたシステム設計が必要となる。表2.8.1にフラックス洗浄で用いられる一般的な洗浄方式の特徴と留意点4)についてまとめたが、適切な洗浄剤、洗浄方式の選択が精密洗浄の品質確保には不可欠となる。

表2.8.1 一般的なフラックス洗浄で用いられる洗浄方式の特徴と留意点
分類 名称 特徴 留意点




循環噴流
洗浄
洗浄槽内で液をポンプで循環させ、汚れを拡散させる。ポンプの送液圧や、吐出口の形状を変える事で、洗浄性を上げることが出来る。被洗浄物への物理的影響が少ない。
槽内の位置、洗浄物の固定の仕方によって、洗浄性にムラが出る場合がある。狭い隙間の洗浄性に劣る。
直通式
洗浄
大流量の洗浄剤を製品あるいは治具等によって隙間を減少させ、被洗浄物に強制的に直接通液させる方式。ポンプの吐出と吸い込みのエネルギーを散逸させることなく、効率的に被洗浄物へ伝えることができるので隙間の洗浄性に優れる。
被洗浄物を洗浄バケット内に密集させないと効果が得られず、形状によっては不向きな場合もある。バケットにも工夫が必要。少量多品種の洗浄には不向き。大型な装置が多い。
超音波
洗浄
洗浄剤中に超音波を照射したときに生じるキャビテーションの作用で洗浄する。汚れを被洗浄物から剥離したり、分散させる作用を促進させる。はんだボールや細かい粒子の除去性、狭い隙間の洗浄性に優れる。
洗浄槽内のキャビテーション効果に強弱が出来るので、被洗浄物を揺動させて洗浄性の均一化を図る必要がある。超音波は直進性があるため、被洗浄物を重ねると、阻害され効果が弱まる。アルミ等のやわらかい材質はエロージョンを起こす可能性があるため、部品によっては適応できない。洗浄液を脱気したほうが洗浄効果が強くなる。
真空洗浄
(減圧洗浄)
密閉容器内の洗浄剤に被洗浄物を浸漬し、容器内を減圧すると、被洗浄物の狭い隙間の空気が脱気されて洗浄液が侵入する。複雑な形状の被洗浄物の洗浄性に優れる。超音波洗浄を併用するとより高い洗浄効果を得られる。
設備費が高め。常圧状態と減圧状態を繰り返し行なうため、比較的処理時間が長くなる。密閉状態により洗浄品質が左右される。





シャワー
洗浄
低圧でノズルから洗浄剤を噴出させ、ある程度の広域を少量の洗浄剤で洗い流す方式。複数のノズルを並置するか、移動させるかして洗浄する面積を広くする。
発泡性の高い洗浄剤、引火性の高い洗浄剤には不向き。スプレーの陰になる部分は十分な効果が得られないので、全体に当てる工夫が必要。
スプレー・
ジェット
洗浄
シャワーより高圧でノズルから洗浄剤を高速で噴射し、被洗浄物に当て、流体の衝突力を利用し表面に固着している汚れを除去するのに用いる。
発泡性の高い洗浄剤、引火性の高い洗浄剤には不向き。シャワー同様陰になる部分は十分な効果が得られないので、全体に当てる工夫が必要。
蒸気洗浄
被洗浄物表面に洗浄剤蒸気を凝縮させ、付着している汚れを除去する。不純物の無い蒸留液ですすぐのと同様の効果が得られ仕上げ洗浄に用いる。被洗浄物の表面温度が蒸気温度と等しくなったときに取り出せば、乾燥も行うことが出来る。
引火点の低い洗浄剤を用いる場合、装置で防爆設備が必要。溶剤蒸気のロスを防ぐため、洗浄槽の上部に冷却管を設ける必要がある。比熱の少ない被洗浄物には不向きである。

2.8.2 リンス工程の設計
 実装工程で使用されているフラックス洗浄剤は、沸点200°C以上の物が多く、洗浄剤をそのまま乾燥することは現実的ではない。このため、乾燥可能でイオン性物質の除去性が高い水や水とアルコールを混合した含水アルコールなどをリンス剤として用い、高沸点かつフラックス残渣濃度の高い洗浄剤を溶解・拡散し、最終的に清浄なリンス剤に置換するリンス工程が必要である。
 量産洗浄におけるリンス工程では、洗浄槽から連続的にフラックス残渣と洗浄剤が持ち込まれ、リンス剤中の洗浄剤およびフラックス残渣の濃度が上昇することにより、リンス性の低下、被洗浄物への汚れの再付着、乾燥不良、乾燥後のシミ残りが問題となる。そのため、プリント回路板のような精密洗浄でのリンス工程は、洗浄剤およびフラックス残渣の濃度が高い槽から低い槽へと段階的にすすぎ洗浄を行なう方法が一般的にとられる。洗浄工程においてフラックス残渣を除去できたとしても、最終リンス工程で汚れ濃度の管理ができていないと、洗浄品質低下を招くおそれがある。そこで、被洗浄物の要求品質を明確にし、最終リンス槽の汚れ濃度の限界値を見極め、最終リンス槽の汚れ濃度を常時モニタリングし管理運用する必要がある。
リンス工程の管理項目として必要な項目を以下に挙げる。

(1)導電率(電気伝導度)

 フラックス残渣中にはアミンハロゲン塩、有機酸など活性剤由来のイオン性物質が多く含まれるため、最終リンス槽の管理基準として導電率が標準的に用いられる。イオン性物質が多く含まれるほど、導電率は高くなり、水または含水アルコール中の導電率変化をみることで、リンス液の汚れ状態を管理できる。
 一般に水は導電率が20μS/cm以上になると電気化学反応が起こりやすくなり、金属の変色や腐食の危険性がある。また、イオン性界面活性剤が析出し易くなり、イオン性界面活性剤によって可溶化または分散していた水に微溶または不溶なフラックス残渣成分の不溶化が起こり再付着の可能性が高まる5)
 含水アルコールの場合は、アルコール内に水分子を取り囲むようにクラスター構造を形成するため、腐食や錆の原因となるH+イオンが発生せず金属腐食がほとんど見られない。加えて水に微溶または不溶なフラックス残渣成分もアルコールには可溶なため再付着の可能性も低い6)。しかし、精密洗浄における洗浄後の品質は外観上に現れる腐食や再付着だけでなく、回路特性を変化させないことが最重要であり、要求される洗浄品質と照らし合わせた導電率の設定が必要である。

(2)液 温

 リンス剤に水を用いた場合、水温が上昇するに従い水の比抵抗値は低下するため、同じ水でもリンス温度が高いほど導電率は上昇し、金属の腐食が起こりやすくなる。
 水を40重量%以上含む含水アルコールの場合は、消防法の危険物に該当しないが、ウイスキーなど飲料用アルコールと同様、引火性を有するため、引火点以下に液温を維持できるように冷却設備などを付帯する必要がある。

(3)洗浄剤およびフラックス残渣の濃度

 水、含水アルコールともに、最終リンス槽の洗浄剤およびフラックス残渣の濃度が上昇すると、乾燥不良、乾燥後のシミ残りなどの品質不良が生じる。そのため、長期間の使用に対して汚れ濃度の飽和点での洗浄の物質収支を試算し、再生・回収も含めたランニングに最適な装置設計を行なうことが重要となる。

(4)水分濃度

 含水アルコールをリンス剤として用いた場合、水分濃度の管理が必要となる。通常使用下において、沸点の低いアルコール成分が揮発し、水分濃度が上昇する。水分濃度の上昇に伴い、すすぎ性、乾燥性が低下するおそれが出てくる。水分濃度の管理については、屈折計を用いて管理ができる。

2.8.3 乾燥工程の設計
 湿式洗浄における乾燥工程は、被洗浄物に付着したリンス剤を蒸発させることであるから、リンス剤は蒸発速度(蒸気圧)が高い方が好ましいが、被洗浄物の物性や形状に寄与するところも大きい。
 乾燥の方式は、以下の物理的方式を単独または、複合して構成されている。
 ①被洗浄物周囲のリンス剤蒸気を含む気体を、それを含まない気体で置換し、蒸気濃度を下げ
  蒸発速度を高める方式。(例:循風乾燥、ブロア乾燥)
 ②被洗浄物と付着しているリンス剤を加熱し、リンス剤の蒸気圧を高めて蒸発を促す方式。
  (例:循風乾燥)
 ③物理的な力を加えてリンス剤を被洗浄物から引き離す方式。(例:吸引乾燥、スピン乾燥)
 ④被洗浄物周辺の雰囲気を、リンス剤の蒸気圧以下に減圧し、蒸発速度を高める方式。
  (例:真空乾燥)
 ⑤蒸発潜熱の小さな溶剤を置換乾燥剤に用い、飽和蒸気中にて被洗浄物を乾燥させる方式。
  (例:ベーパー乾燥)
 プリント回路板の洗浄では、リンス剤の付着量が被洗浄物の大きさに対し、相対的に少ないため被洗浄物の伝熱速度が乾燥を律する場合が多い。プリント回路板は絶縁体としてエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、テフロン樹脂などの樹脂材料が多く使用されており、これらの物質への伝熱速度を上げる装置の設計が必要になる。
 伝熱の基本法則であるFourierの法則も、伝熱による単位時間の伝熱量dq/dtは熱流の方向に直角な物体の面積Aおよび熱流方向の温度勾配dT/dxに比例し、前述のFickの第一法則と同じ形で表される7)

 dq/dt=-λ・A・dT/dx
 λ
:熱伝導度

 表2.8.2に各種材料の熱伝導度を示すが、エポキシ樹脂などの樹脂材料は金属類と比較し100分の1以下である。したがって、プリント回路板の乾燥において、伝熱の媒体となる空気の強制対流で伝熱速度を上げる必要がある。循風乾燥の場合は風速、風量を実験から最適な値を決める必要がある。真空乾燥においては、空気(気体)による対流が無いので輻射や伝導による伝熱を利用し伝熱速度を上げる対策が必要となる。

表2.8.2 熱伝導度κ
物質 κ(W/m・°C)
420
398
320
アルミニウム 236
86
スズ 65
35
アルミナ 21
ステンレス鋼 18
鉛ガラス 0.6
テフロン 0.5
ポリエチレン 0.4
シリコーンゴム 0.2
エポキシ樹脂
(ビスフェノールA型)
0.2


2.8.4 回収・浄化工程の設計
 洗浄機における管理基準を定めても、常に洗浄剤、リンス剤の汚れ濃度が管理基準値以下になるように運用しなければならない。被洗浄物の表面付着によってフラックス残渣や異物などが、次工程へ持ち込まれるため、異物の回収や、洗浄剤・リンス剤を浄化する機構がなければ、長期間の連続使用で安定した洗浄品質は得られない。洗浄システムの中ではこれらの回収・浄化機構が重要となり、洗浄品質だけでなく、ランニングコストや環境負荷に大きく影響を与える。
 回収・浄化機構として代表的なものに、以下が挙げられる。

(1)フィルターによる異物の回収

 フィルターにより洗浄剤、リンス剤中に混入したはんだボール、フラックス残渣の析出成分、基板クズ等の固形異物の捕集や、リンス剤中に可溶化または分散したイオン性物質や有機物を吸着によって回収を行なう方法である。
 はんだボールなどの固形異物の捕集には樹脂製の不織布のフィルターが用いられ、捕集する対象の大きさによって孔径を決める。装置内の循環ラインに取り付け全量ろ過する場合と、バイパスろ過を設ける場合とがある。全量ろ過の場合は、液を全量フィルターに通すことが可能であるが、フィルターの孔径、捕集度合によっては圧力損失が大きくなり液流が低下し、洗浄品質の低下とホンプに大きな負荷がかかる。バイパスろ過を設ける場合は、全量ろ過のような圧力損失による液流低下、ポンプへの負荷の心配は少ないが、ろ過流量と槽内の液滞留時間を考慮して、設計(ポンプ選定)を行なう必要がある。
 また、リンス剤中に可溶化または分散したイオン性物質をイオン交換樹脂で、有機物を活性炭でそれぞれ吸着させる。前述のように特に水をリンス剤に用いる場合、イオン性物質濃度が上昇して、導電率が高くなると金属腐食や再付着が生じ易くなる。また有機物が多量に混入すると乾燥不良やシミにつながるので、フィルターによりそれぞれを防ぎリンス剤の寿命を伸ばすことができる。
 ただし、これらのフィルターには飽和吸着量があり、定期的な交換管理が必要となる。

(2)油水分離による洗浄剤の回収

 リンス剤に水を用いる場合、リンス槽とは別の槽を設け、静置分離または機械的な分離を行い、リンス性を低下させる洗浄剤成分・フラックス残渣成分(油分)をリンス水から分離し回収する方法がある。油分を除去し得られた水分はプレリンス水として再利用されるので排水負荷を低減できる。ただし、洗浄剤の種類によっては油水分離ができないものがある。

(3)洗浄剤の蒸留再生

 炭化水素系洗浄剤など一液タイプの洗浄システムに洗浄剤の浄化として、蒸留再生がよく用いられている。蒸留再生することで、不揮発性のフラックス残渣を回収し、洗浄剤中のフラックス残渣濃度を低濃度に抑え、安定した洗浄性を確保できる。従来、連続蒸留再生が可能な洗浄剤は単一成分や共沸混合系に限られるとされ、沸点が異なる混合溶剤の場合、バッチごとに全量蒸留するシステムが一般的であった。また、水が混入すると沸点差による突沸が生じ、蒸留時の気液平衡のバランスがくずれてしまうなどの問題があるため、蒸留再生する対象の洗浄剤は水を含まない溶剤系に限られていた。
 しかし、極性が異なる成分の混合体であるフラックス残渣に適したフラックス洗浄剤はこれらの条件には適さず連続蒸留再生できないものが多かった。この課題に対して近年では、非共沸系溶剤や含水系溶剤でフラックス残渣に適した洗浄剤の連続蒸留再生機構を付帯した洗浄システムも新たに提案されている8)

(4)リンス剤の蒸留再生

 含水アルコールをリンス剤に用いた洗浄システムでは連続蒸留再生により、不揮発性のフラックス残渣と高沸点の洗浄剤を回収する方法がある。蒸留再生によって最終リンス槽が常に清浄な液となり、安定したリンス性、高い清浄度を確保できる。含水アルコールは、水とアルコールの蒸気圧が異なる非共沸系のため、成分比を一定にして連続蒸留再生するには、気液平衡を熟知した上で装置メーカーのノウハウが必要となる。

2.8.5 代表的な洗浄システム
 実装工程で使用実績の多い代表的なフラックス洗浄システムの構成を以下に示す。(図2.8.3

611
図2.8.3 各洗浄システムの一般的な槽構成

(1)準水系洗浄システム

 グリコールエーテルを主成分に、界面活性剤と水を添加した洗浄剤を用い、リンス剤に水を用いるシステム。基本槽構成としては、洗浄、プレリンス、仕上げリンス、乾燥の4槽(必要に応じて洗浄槽またはリンス槽数を増やす場合もある)となる。仕上げリンス水の清浄性維持のため粒状活性炭、イオン交換等の設備や、雑菌による微生物汚染防止のためのUV殺菌装置などが付帯される。排水設備も必要となり、大型な洗浄装置が多い。洗浄剤の種類にもよるが、油水分離装置を付帯することで排水負荷を低減することが可能。洗浄剤はVOC成分を含むが、リンス剤に水を用いるため乾燥時に揮発するVOC量はゼロとなる。

(2)含水アルコールリンス洗浄システム

 グリコールエーテルや高級アルコールを主成分とした洗浄剤を用い、リンス剤に含水アルコールを用いるシステム。基本槽構成は準水系洗浄システムと同じ。準水系洗浄システムと異なりリンス剤は連続蒸留再生を行うため、廃液量を大幅に削減できる。蒸留再生とイオン交換樹脂により汚れ成分をカットすることで、清浄なリンス剤で仕上げリンスが行なえるため品質も安定する。含水アルコールの殺菌力と蒸留再生により、微生物対策や排水設備などが不要であり、準水系洗浄システムと比べ付帯設備も少なく洗浄機をコンパクト化できる。

611
図2.8.4 フラックス洗浄機 外観写真

(3)炭化水素系洗浄システム

 炭化水素系洗浄剤で洗浄後、イオン性物質の除去性を確保するためIPAでリンスを行なうシステム、または炭化水素にグリコールエーテルを混合した洗浄剤を用いた一液で洗浄できるシステムがある。
 後者が主流であり、基本的な槽構成としては、粗洗浄、仕上げ洗浄、乾燥の3槽となり、多くは蒸留再生器を付帯している。一液で工程を完了させるため、沸点の比較的低い洗浄剤が用いられ、防爆設備など安全面の十分な対策が必要。

(4)コ・ソルベント洗浄システム

 炭化水素系溶剤やグリコールエーテル系溶剤を主成分とした洗浄剤を用い、不燃性で乾燥性のよいフッ素系溶剤をリンス剤に用いるシステム。乾燥時の熱量を削減することが可能だが、VOC成分は100%であり、開放型では環境面の影響が大きく、またフッ素系溶剤が高価であるため、密閉型装置が主で大気放出を少なくしている。

2.8.6 フラックス洗浄機の清浄度管理9),10)
 ここでは、グリコールエーテル系洗浄剤と含水アルコール系リンス剤を用い、リンス剤を連続蒸留再生できるフラックス洗浄機(図2.8.4)における清浄度管理の実施例を以下に示す。
 フラックス洗浄機は、JIS2型くし型電極で測定した電極表面の誘電損失(tanδ)を管理基準とし、混入してくるフラックス残渣などの濃度と、電極のtanδの相関からリンス剤の管理濃度(純度)を決めている(図2.8.5)。また現場での管理として、混入してくるフラックス残渣などの濃度と導電率の相関(図2.8.6)から、導電率計でのリンス剤の濃度管理を行なえるように設備設計している。

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図2.8.5 リンス剤中における洗浄剤(フラックス残渣10wt%を含む)濃度と
    洗浄後基板の加湿による誘電正接増加量⊿Dの関係




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図2.8.6 リンス剤中における洗浄剤(フラックス残渣10wt%を含む)濃度と
    電気伝導率の関係


 量産洗浄では、連続的に多量のワークを洗浄していくため、長期間の使用に対して汚れ濃度が飽和する点での洗浄の物質収支を試算し、最終リンス槽の濃度管理、リサイクルも含めて、最適な装置設計を行なうことが特に重要となる。
 図2.8.7に示したフラックス洗浄機のフロー図から分かるように、清浄度の管理基準が明確になれば、必然的に各工程が最適化できる。


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図2.8.7 フラックス洗浄機 フロー図(一例)

今後の展望

 フラックス洗浄機は、高い洗浄品質と生産効率を維持しながら、より環境への影響が少ないものが求められる。その上で、装置の小型化、低コスト化、少量の洗浄剤で効率のよい洗浄方式、リサイクルシステム、装置全体のクローズド化、などの実装現場の要求に応えていく必要がある。
 これらの洗浄機を実現するにあたっては、洗浄後の信頼性評価技術、洗浄剤の設計技術、洗浄機の装置設計技術の三者が別個にではなく同じ土俵で洗浄システムを構築、設計していくことが重要となってくる。
〈赤松 悠紀〉

【参考文献】

1)D.J.SHAW著、北原文雄、青木幸一郎
 共訳:コロイドと界面の化学、廣川書店、(1978),p.21
2)前野純一:生産技術実用化便覧、工業調査会、(2000),p.865
3)GordonM.Barrow著、藤代亮一訳:バーロー
 物理化学、東京化学同人、(1981),p.644
4)平塚豊:すぐ使える洗浄技術、工業調査会、(2001),p.33
5)前野純一:産業洗浄、No.5,(2010),p.12
6)堀薫夫:すぐ使える洗浄技術、工業調査会、(2001),p.335
7)藤田重文:化学工学Ⅰ、岩波書店、(1977),p.50
8)赤松悠紀:電子材料、7月号別冊、(2009),P.90
9)堀薫夫、高橋久和:表面実装技術、9月号、(1983),p.30
10)高橋久和:生産技術実用化便覧、工業調査会、(2000),p.859


 
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